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1年の終わりが近づき、世の中も年末モードに入っている。2011年を振り返ると、最も大きな出来事として、東日本大震災という痛ましい大災害があった。
「2011年の住まい選び」を考える際、大震災なしで語ることはできない。事実として、大震災は、消費者の住まい選びに大きな影響を与えた。例えば「家を所有しない生き方」がメディアで特集されるなど、従来の価値観を覆すような生き方も取り沙汰されるようになった。
今回の記事では「東日本大震災が、住まい選びにどのような影響を与えたのか」という視点から2011年を振り返ってみたい。
(中略)
住まい選びでは「家族とのつながり」を重視
住まい選びにおいても、東日本大震災後に消費者の志向に変化が見られた。「東日本大震災による住意識の変化」調査によると、震災後に親や子どもと近くに住みたいという願望が強くなっている。
「遠距離にいる親族(両親や子供など)を呼び寄せる、近くに引っ越すなど、できるだけ近くに住もうと考えるようになった」が震災後33%(震災前25%)に増加した。
震災後、特に若い世代ほど、親族とできるだけ近くに住もうという意向が増えているのだ。深刻な災害により、身近な「つながり」である家族を想う気持ちが強くなっていると言えるだろう。
また他の調査でも、震災後に今後大事にしたいことのトップが「家族・親戚とのつながり」だった。大震災をきっかけに消費者が「本質的な問い」と向き合った結果、多くの人がたどり着いた答え……。それは他ならぬ「家族とのつながり」だった。
震災後の新築成約価格が変化
もちろん消費者の価値観の変化は、住まい選びにも影響を与える。
耐震リフォームの需要が一気に増えたという局所的なこともあるが、それより2011年を通じて、震災前後でどのように変化しているかが重要である。そういう意味では、実は住宅商品の購入単価にその変化が現れている。
グラフは、2010年10月から2011年までの「震災前後の首都圏の成約価格推移」である。中古戸建、中古マンションの成約価格は震災前後で大きな変化はないが、新築戸建ての成約価格が震災後に高くなっているのだ。
実際に計算してみると、震災前の月平均の成約価格は3423万円、震災後の月平均成約価格は3504万円で、80万円ほど購入単価は高くなっている(ちなみに、首都圏の着工戸数も同じ月平均で見て、震災後のほうがわずかに増えている)。
普通に考えれば消費者マインドが低下して単価が落ちると考えられるが、予想に反して成約価格が上昇している。さまざまな理由が考えられるが、前段の「つながり」というキーワードから考えると、消費者が大事にしたいと思う「家族とのつながり」に対しては震災前よりも積極的に消費するようになったと考えられる。
大事な「家族のつながり」を災害から守るのは、何よりも「住まい」であり、その構造や性能には妥協しない。「安かろう、悪かろう」という消費ではなく、自分たちが大切にするものへの消費を重視した結果が成約価格に表れたのだ。
また、肝心の購入費用増加分については「家族のつながり」が「親子近居」をもたらし、結果として、親からの資金援助が寄与していると考えられる。
震災によって気づいた本質的な「住まい」の価値
2011年を振り返ると、東日本大震災によって消費者が本質的な「住まい」の価値を改めて実感した年と言える。大切な家族を守るという「住まい」の価値の重要性を再認識したのだ。
余談だが、全国の住宅・不動産会社に対して一斉に覆面の接客調査を実施し、ナンバーワン店舗を決める「L-1グランプリ(全国合同一斉覆面調査)」という企画を今年の9〜10月に実施した。そこで消費者が「住宅選びの際にもっとも重視する項目」を聞いたところ、1位はやはり「構造・性能」だった。2006年に実施した自社調査では、「構造・性能」は7位だったが、震災後の覆面調査の結果を見ると、飛躍的に「構造・性能」を重視する消費者が増えている。
単にコストパフォーマンスだけを考えて住まいを選ぶのではなく、自分の大切にするものに対してコストをかけているのだ。
2011年は、住まい選びにも本質的な問いを突きつけられた1年だった。来年は増税論議も含めて、今年よりも住まい選びの意思決定が求められる場面が増えてくるだろう。ぜひご自身の価値観やライフスタイルを問いかけながら、適切な知識を持って2012年以降の住まい選びに臨んでいただければと思う。
<編集部からのコメント>
2011年も残すところ数日となりました。曜日で言えば今度の日曜が元旦ですから、もう本当にあとわずかですね。
今年の住宅市場を振り返れば、最大の出来事はもちろん東日本大震災であります。地震そのものだけでなく、津波の被害や液状化現象の問題、その後の電力不足などによって、住宅の「あり方」にも大きな課題を投げかけました。
震災を契機に、住宅への考え方が大きく変わった人も多いのではないかと思います。上記記事ではそうした変化を的確にまとめておりますね。
記事から引用していくと、まず1つ目の大きな変化は「遠距離にいる家族とできるだけ近くに住もうと考えるようになった」という点です。上記グラフにある通り、いずれの世代も、そうした意向が6%〜14%の範囲で大きく増加しております。
ちょっと興味深いとすると、最も高いのは20代で、概ね世代が上になればなるほど、その意向が緩やかに下がっている点ですね。子→親への依存はあるものの、親→子への依存は低いと捉えることもできますし、年を取れば取るほど「自分たちが動くのは嫌」と考える、と解釈することもできます。
2つ目の変化は「新築戸建ての成約価格が震災後に高くなっている」という点です。上記グラフを見る限りではちょっと分かりづらいですが、震災前と震災後で比較すれば80万円ほど購入単価が増えているようです。
その理由として、「住宅の構造や設備には妥協しない」姿勢が成約価格に反映されたのでは、と指摘しております。なるほど、確かにそれはありそうですね。
また、上記の通り家族となるべく近くに住もうという「親子近居」の結果、親からの資金援助が寄与した可能性にも触れております。真偽は定かではありませんが、納得できる仮説であります。
加えて、もしかすると地盤のしっかりしたところへの人気が集中し、価格を押し上げた可能性もあるのかもしれませんね。
いずれにしても筆者の方が指摘するように、震災によって「大切な家族を守るという、住まいの価値の重要性」が再認識されたのは間違いないと思います。もちろん、そうした流れは、不幸な出来事の結果ではありますが、良いことだと思われます。
2012年は、さすがに2011年より酷い年にはならないと思いますが、住宅に関しても、本質的な価値を持つ物件が増えてくることを期待したいと思います。
ここから3月にかけて、不動産取引が最も盛り上がるシーズンとなってきますが、住宅選びをされている方がよりよい物件に出会えることを心からお祈りしております。