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<編集部からのコメント>
ここ数年、どうも気になって仕方ないのが、「太陽光発電の売電収入によって建設費を賄う」というアイデアのもとに生まれた「建設費ゼロ」住宅です。極端な例では土地代すら売電収入で賄うとする究極の「建物代・土地代ゼロ」住宅すら売りに出ていますね。
しかし、もしそんな自己資金が完全にゼロという住宅があり得るなら大流行してもよさそうなものですが、実際にはそうしたビジネスを紹介する記事を1年に1回見るかどうかという状態であり、大きなムーブメントにはなっていないようです。
そんなわけで久しぶりに重い腰を上げて調べてみると社会的にはおおむね「ローン0円住宅」として認知されているようですね。また、さすがに土地代ゼロをうたっている商品は少なく、基本的には前者の「売電収入で建物代を賄う」ことを狙って供給されているようです。
さて気になるのが本当にこうした「建設費ゼロ円住宅」「ローン0円住宅」が建設可能なのかということですが、それを理解する上では以下の前提が挙げられます。
1.今の売電価格は太陽光発電設備への投資資金が概ね10年程度で回収できるように設計されている。
2.ソーラー発電量を10kw以上とすると20年間固定で買い取ってくれる。
つまり、この前提から「住宅価格0円住宅」を建てようとするとこうなります。
1.ソーラー発電量を10kw以上とする。
2.そうした大規模発電を可能とする土地をすでに持っている。
3.太陽光発電設備と同額以下になるよう、建物価格を抑える。
単純に言えば、太陽光発電設備を1,000万円とした場合、建物価格を1,000万円に抑えれば、最初の10年の売電収入でまず太陽光発電設備への投資資金がペイし、次の10年の売電収入で住宅価格がペイするということですね!
机上の計算としてはつじつまが合いますが、ではリスクとしてはどういった点が挙げられるのでしょうか?
1つ目はやはり想定通り発電できるのかどうか、という点ですね。これは日照や天候、周りの建物、ソーラーパネルの性能にも影響されますので一概には言えません。
2つ目はどんな工業製品もそうですが、経年劣化していくということです。つまり出力が徐々に落ちていくわけですね。仮に10年後から出力が20%ダウンすれば、住宅ローンの返済も20%「穴が開く」ということになります。
加えて太陽光発電システムのパーツの中には、そもそも平均寿命が20年もないものがあり、それらの修理・交換代は確実に発生します。
とは言いつつこれらはある程度、「事前に読める」リスクであり、余裕を持った計画を立てておけば問題なさそうです。
やはり何と言ってもこの「20年買い取り保証」が国によって担保されている点が心強いですね。全体的には相応に期待できるコンセプトの商品と言えます。
では冒頭ご案内したようになぜ大きなムーブメントにならないのでしょうか?
それはつまり、顧客のニーズとミスマッチしているからということなのでしょうね。
どういうことかというと「すでに広い土地を持っている」「太陽光発電設備によって1,000万円程度建設費が上昇しても許容できる」といった点を考慮すれば、この商品のターゲットはやはり「富裕層」ということになります。
ではそうした富裕層が「ローンがゼロ円になる」ということに飛びつくかと言えばそうは思えませんし、「2,000万円の建物を建てられる余力・財力・信用力」があるのに、「太陽光発電で賄うために1,000万円の建物で我慢する」選択をするとも思えません。
つまりこうした「ローン0円住宅」のターゲット客は、結果的にかなり小さい市場である可能性があるわけですね。
むしろ狙うべきなのは、太陽光発電500万円+建物代500万円=1,000万円といったボリュームゾーンですが、では実際に500万円で家を建てられるかと言えばそうは行きません。最低限必要な建材や人件費はいくら安普請であっても限界があるからですね。
いずれにしても「10年でペイする」という太陽光発電への投資メリットは誰でも受けられますので、わざわざ「0円ローン」のコンセプトに抑え込まなくても、「好きな家を建て、好きな分だけソーラーパネルを乗せる」ということで実現できます。
こうしたことが「ローン0円住宅」がそこまで広がらない背景にあるのでしょうね。
そして上記記事にあるとおり、「ローン0円住宅」に対して、さらに厄介な動きがあります。「再生可能エネルギーの買い取り制度で電力会社5社が新たな受け入れを中断した」とのことです。あくまで「中断」ではありますが、しかし不透明となったのは間違いありません。
全体的には「中断」対象となるのは50キロワット以上の「発電所クラス」のもののようですが、しかし九州電力や北海道電力はその目安を10キロワットとしており、一般的な家庭用太陽光発電は問題ないものの、上記「ローン0円住宅」の建設がほぼ不可能となります。
特に記事でも指摘されておりますが、気候がよい九州地方では発電量が10キロワット以上の住宅も多く深刻な影響が懸念されるということですね。ではどれくらいの規模かと言うと・・・契約済み件数は約1,200件とのことです。
・・・少ない!
思ったよりも少ないですね。記者の個人的なイメージより5分の1〜10分の1といった感じです。やはり「ローン0円住宅」はコンセプトや「絵」はきれいであるものの、実際にはかなりマニアックな商品であるということですね。
太陽光発電設備の分、建物価格が倍増するわけですから、検討者の気持ちがひるむのも当然かもしれませんが。
こうした電力会社の動向を受けて、「ローン0円住宅」市場がどうなっていくのか注目したいと思います。
参考になさってください。