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<解説・異論・反論>
「持ち家か賃貸か」。記者が好きなこの命題ですが、残念ながら最近はあまり見かけなくなった気がします。見かけなくなるということは関心がなくなっているということで、もしそうだとすればそもそも消費者は持ち家と賃貸とで悩むことは少ないということなのかもしれませんね。
それでもたまにこれに関する話題を見かけると必ずチェックするのですが、以前は「持ち家の方が絶対お得!」という論調が圧倒的だったのに対して、最近は「持ち家も賃貸もトータルコストは変わらない」といった結論が主流になっている気がします。
当サイトではまさに後者の「持ち家も賃貸もトータルコストは変わらない」 という立場を取っておりまして、詳しくは以下の過去記事を参照いただければと思いますがその点ではそうした論調の変化は好ましく感じます。
>>>賃貸か分譲かは人生における究極の選択肢
そういえば先日、久しぶりに「持ち家の方がお得!」という記事を見かけて興味深く読んだのですが、肝心の根拠については「自分の中で結論は出ている」という表現で済まされ、ほとんど全く納得できる主張はありませんでした・・・。
さて今回取り上げた上記コラムでは「家賃はもったいないか?」 として、この「持ち家か賃貸か」論争に正面から切りこんでいるわけですが、その主張は、そもそも50年といった数十年分の住居コストを算出し比較すること自体無意味、ということですね。50年後の家賃や持ち家の価値など誰にも分からない、ということです。
この持ち家か賃貸かという争点に対して「それを言ったらオシマイよ」という気もしないではないですが、とはいえ責任感ある冷静な指摘だと思います。
加えて結論として「家を買う理由はお得だから買うのではなく、家が欲しいから買うと考えれば良い」というのも当サイトの主張と全く同じです。「トータルコストでほぼ変わらない」としても「正確に比較などできない」としても、結局のところ優劣をつけられないわけですから、どちらが正しくてどちらが間違いということはなく、あとは感情次第、ということですね。
数十年にわたって住宅ローンに苦しむわけですから、十分な満足感を与えてくれるマイホームであることは当然必要であるわけですし、そうした負担を考慮しても欲しいと思える物件であれば「ホンモノ」と言えるかもしれません。
また、マイホームが賃貸に対して「ボロ負け」するケースの1つが住み替えを行う場合ですね。住み替えを行えば、手数料・税金・引っ越し費用などで多額の追加負担が発生します。その点ではいつもご案内しているように「一生住みたい・住める物件に出会うこと」が一番大切です。
一方で、一般論として「持ち家と賃貸とでコストに大きな差はない」としても個別にはもちろん「明らかに負け」ということがあり得ます。持ち家の場合で言えば、身の丈以上の住宅ローンを背負い、賃料以上の住宅ローン返済額にしてしまうケースですね。
当たり前の話ですが、「持ち家か賃貸か」という議論においては同じようなクラスの家に住むことが前提になっていますので、住宅購入の際、「住宅ローンが借りられそう」ということで気が大きくなったり、「とても魅力的な家だから」といった理由で、よりグレードの高い家を選べばトータルコストが増えるのは自明です。
さらに持ち家の場合、住宅ローンの返済だけでなく、税金や修繕積立金、管理費など、住宅ローン以外の費用も発生するわけでむしろ「住宅ローン返済額は賃料以下に抑えないといけない」と言えます。いくら「一生住みたい・住める物件に出会うこと」が大切だと言ってもそこには予算があり、限度がある、ということですね。
もちろんそうした話は賃貸にも言えて、賃貸の身軽さから住宅をどんどんグレードアップしてしまい、リタイア時に気が付いたら貯金がほとんどなかったということでは全く笑えません。
そのように財布のひもが緩めの人はあえてマイホームを購入して支出を固定化するのも手かもしれませんね。
では具体的に消費者の方々がなぜマイホームを所有したいかと言うと、国土交通省による「土地問題に関する国民の意識調査」ではこのようになっています。
・子どもや家族に土地・建物の形で財産を残したいから : 52.7%
・土地・建物は他の資産と比べて有利な資産だから : 34.5%
・借地、借家では生活や権利が不安定であり満足できないから : 30.5%
・土地・建物が所有できるなら、家賃等を払うよりローンを支払う方がいいから : 27.5%
1人2つまでの回答だったようで合計が100%を超えていますが、ここまでの話をベースにすると、残念ながらどれも「非合理的」です。
まず1つ目の「財産を残したいから」という理由ですが、建物は確実に資産価値を失いますし、土地も子供たちにとって「利用価値」があるかどうかはわかりません。むしろ、自宅は職場や学校に近ければ近いほどいいとするなら、利用価値はほとんどないでしょうね。全国で空家がどんどん増えている理由の背景には少子高齢化に加えて、こうした「意識ギャップ」もあるのかもしれません。
2つ目の「他の資産と比べて有利」 というのも意味が分かりませんし、4つ目の「家賃等を払うよりローンを支払う方がいい」というのも間違いなのは申し上げてきたとおりです。
3つ目の「借地、借家では生活や権利が不安定」 という気持ちは分からないでもないですが、一方で借地・借家の場合、生活や収入の変化に対して柔軟性を維持できるわけで別の安心がありますね。二面性の片方しか見ていない感じがします。
そうしたわけでどれもピンとこなかったわけですが、逆に一番ピンと来たのはこの結果かもしれません。
・土地・建物を両方とも所有したい : 79.2%
・建物を所有していれば、土地は借地で構わない : 4.6%
・借家(賃貸住宅)で構わない : 13.1%
要するに・・・みんな「持ち家が好き」ということですね。あーだこーだ理屈を探ってもあまり本質的ではなく、「ほしいからほしい」「本能的にほしい」「理屈抜きにほしい」というのが実態なのかもしれません。
もしそうだとすればそれに付随するすべての理由は「後付け」ということですね。
ではこの「ほしいからほしい」という姿勢を記者がどう思うかと言うと・・・いいんじゃないですかね!?
繰り返しになりますが、賃貸と持ち家の間に直接的な損得関係はないとするなら、感情(本能?)に従うのは決して悪いことではないと思います。
ただし動機はいくら本能的なものであったとしても、返済計画は、冷静に、理性的に、保守的に、安全に組んでいただければと思います。返済しきれずに手放すことになればシャレになりませんからね。
なお、この調査ではこうした所有姿勢の推移も掲載されておりまして、「土地・建物を両方とも所有したい」と答えた方の割合はこのようになっています。
・2015年調査 : 79.2%
・2014年調査 : 77.0%
・2013年調査 : 79.8%
・2012年調査 : 81.6%
・2011年調査 : 80.9%
・2010年調査 : 81.3%
・2009年調査 : 85.1%
・2008年調査 : 81.7%
・2007年調査 : 84.5%
・2006年調査 : 86.1%
80%前後で安定しているとも、徐々に低下しているとも言えます。おそらく両方とも・・・正しい見方なのでしょうね。いずれにしてもかなり長い間、日本の「持ち家信仰」が続くことは間違いありません。
そうした「信仰」を批判する人もおられますが大きなお世話ですね。繰り返しになりますが賃貸と持ち家とでトータルコストで大差ない(or事前に正確に比較できない)以上、好きな方を選べばいいわけで、「持ち家が好き」で「それで満足感・幸福感を得られる」ならそれが「正解」となります。逆も真ですが。
ただし肝心なのは本当に「持ち家」にできるかどうかで、当然のことながら住宅ローンを完済し終わらない限り100%自分の家にはなりません。その点からもこれまた繰り返しで恐縮ですが、完済可能な予算枠を堅持していただければと思います。
参考になさってください。