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先日の日経新聞の記事を読んでぶったまげた方もおられたかもしれません。内閣府の中長期の財政試算によれば、経済再生がうまくいった場合、2024年の長期金利は何と4.4%に達するということですね!
トンデモ評論家が「4.4%」と予測しても誰も信じませんが、何といっても政治の中枢である「内閣府」の試算ですので、いくら「経済再生がうまくいった場合」の注釈付きだとしても、「もしかすると・・・ありえるのかな?」と思われた方もおられるかもしれません。
そうした方にはいつもご案内している超長期の長期金利のグラフを再度御覧いただければと思います。
長期金利が4.4%って一体いつの話ですか・・・少なくとも20年以上前の話です。
しかも今はマイナス金利水準ですからね!賭けてもいいですが、「長期金利が4.4%の時代」など永遠に来ません。もう、絶対来ません。あり得ません。
なぜ90年代のバブル崩壊以降日本経済がずっと足踏みを続けているかと言えば、少子高齢化という構造変化が起きているからですね。単なる景気変動ではなく人口動態が変化しているわけですから、同じ状態に戻すのであればまずはこの「少子高齢化」の流れを逆転させる必要がありますが、大規模な移民でも受け入れない限りその実現は不可能です。
また奇跡的に少子高齢化にブレーキがかかったとしても、その「ボーナス」が来るのは20年後、30年後といった話であり、2024年に状況が一変する可能性はまずありません。
さらに忘れてはいけないのは、インフレ目標達成のために日銀が頑張れば頑張るほど金利が低下していく、という事実ですね。足元の金利低下がその現実をハッキリと物語っております。
では、そんな素人でもわかりそうな「おかしな試算」をスーパーエリートぞろいの内閣府が提出してきたかと言えば、「2020年度にプライマリーバランスの黒字化」という財政再建目標を達成するためのシナリオだからですね。
言い換えれば 「それくらいの経済成長(=金利上昇)が実現しないと2020年度にプライマリーバランスの黒字化は無理」ということでもあります。グラフにするとこういうことですね。
これまた突っ込みどころは多いですが、まず2016年度以降のプライマリーバランス=基礎的財政収支の「急速な赤字縮小=健全化」は予想であり、「全くの希望的観測」ということですね。
特に現在進行中の「2016年度」については赤字がむしろ増えそうな点が泣けてきます。つまりは「全然やる気がない」ということですね・・・。
さらに肝心の2020年度も赤字が5兆円以上残る計算です。日本の財政破綻を憂い、1日も早い財政健全化を期待する国民の1人としては暗澹たる気持ちになってきますが、いずれにしても今回の内閣府試算を受けての正直な感想は、「長期金利が4.4%まで上昇するかも!」ではなく、「2020年度のプライマリーバランス黒字化は絶対に無理!」というものです・・・。
ぶっちゃけて言えば「もしかすると財政健全化目標は達成できるかも?」という甘い期待を抱いていたのですが具体的な数字を見れば不可能であることが分かります。誰かさんは選挙期間中、「気を付けよう、甘い言葉と民進党」と叫んでおられましたが、「気を付けよう、甘い言葉と財政健全化」とお返ししたいと思います。いやはや・・・。
そうしたわけで上記「長期金利4.4%」は目標から逆算した「こうしないと辻褄が合わない数字」の1つに過ぎず、その実現性はプライマリーバランス黒字化目標と同じく「全くのゼロ」ですが、念のため長期金利予測についてどのような試算となっているのか抜き出したいと思います。
まずはより現実的な「ベースラインケース」はこうです。
・2016年:0.3%
・2017年:0.8%
・2018年:1.1%
・2019年:1.2%
・2020年:1.5%
・2021年:1.6%
・2022年:1.7%
・2023年:1.8%
・2024年:1.9%
2016年の長期金利はマイナスになるのはほぼ確実ですから、つまりは出だしから間違っているわけですが、2024年の予想は1.9%ということでまだ「ありえる」と言えそうです。
ありえると言っても可能性としては1割以下とかそういったレベルだとは思いますが・・・。
次に荒唐無稽な「経済再生ケース」はこうです。
・2016年:0.3%
・2017年:0.8%
・2018年:1.7%
・2019年:2.7%
・2020年:3.4%
・2021年:3.8%
・2022年:4.1%
・2023年:4.2%
・2024年:4.4%
恐らく2018年ごろに金融緩和が解除され、その後、空前の好景気を迎えるというシナリオなんですかね。
しかし思い出していただきたいのは、小泉−竹中時代に日本は戦後最長の好景気を迎えましたが、その時でも長期金利は2%に届きませんでした。
また、アベノミクスを支える「安倍−黒田」体制が始まったのは2013年ですね。すでに3年以上経ちましたが、黒田総裁が就任当初、「2年以内にインフレ目標2%を達成する」と豪語し、副総裁が「達成できなければ辞任する」とまで言って約束した目標はいまだ全く達成できずにおります。足元のインフレ率はもはやマイナスですからね!
ちなみに件の副総裁氏は辞任せず元気に副総裁としてご活躍されております。あしからず。
とすると、2年後に物価目標が達成され、異次元緩和が終了し、金利が急上昇するというシナリオを信じろという方が無理がありますね。もし達成できるのであれば1年前にとっくに達成しているはずです。
さらに日銀が頑張れば頑張るほど金利が下がっていく関係性にあるのは申し上げた通りです。
繰り返しになりますが、これらはあくまで内閣府の「金利予測」ではなく、「2020年にプライマリーバランスの黒字化を達成しようと思ったらこれくらいの経済成長と金利が必要」という、目標から逆算された数字ですので申し訳ないですが信憑性は一切ありません。
しかもこれでも2020年に黒字化できないわけですからね!もうこの目標はポエムであり、バーチャルリアリティーの世界となっております・・・。
そうしたわけで「長期金利4.4%」を心配する必要は一切ありません。もし心配な方は、この試算は半年に1回算出されるようですのでぜひチェックしていただければと思います。
発表ごとにどんどん後ろ倒しになっていくことは間違いありません。そもそも増税を2年半も延期したわけですからね。財政健全化も同期間遅れると考えるのが自然です。
なお、この数字を見てしまうと「それでも心配」という方はおられるかもしれません。その場合は
1.毎月のインフレ率をチェックする : +2%に達しないと金融緩和は解除されません。
2.2ヶ月に1回の日銀会合をチェックする : 金融緩和が解除される前に「縮小」の段階がきますので、そこから対策を考えても遅くはありません。
3.長期金利をチェックする : 上記試算を心配するのであれば、少なくとも2017年に実現が予想されている、長期金利が「0.8%」を超えてからでいいのではないかと思います。
といった対応でいかがでしょうか?
しかし政治の要請とはいえ、内閣府も無責任な予測をするものですねぇ。言葉尻をとらえて「政府も2024年に長期金利が4.4%に上昇すると言っていますよ!」といったセールストークが蔓延しないか心配になってきます。
参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>